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或る「小倉日記伝」の鈴の音

1月 23rd, 2010

 年末に松本清張のテレビを見たせいもあるのですが、或る「小倉日記伝」を読みました。
 森鴎外が軍人でクラウゼヴィッツの「戦争論」を講義したなんてゆう話もでてくるようにまだ男性が強かった時代に、主人公の男性はは社会的弱者として描かれます。母親が超美人であるとかが小説的な演出のような気もしました。子供時代の重要なエピソードで、とても仲良くしてもらった家庭があり、とても幸せな時間を過ごします。その家庭のじいさんが仕事に使う鈴の音の、ちりんちりんという音を彼はいつまでも覚え続けます。
 成人した彼は頭はとても良いのですが、ハンデゆえに仕事にさえ就けない。そんな彼は書物、想像の世界に埋もれてゆくのですが、ここでも、こどものころの想い出の「でんびんや」の鈴の音がきっかけで森鴎外に興味を持ちます。頭脳をもてあます彼は森鴎外の小倉時代の日記を探すことを人生の支えとして生きてゆきます。彼の母親も夫をなくしてからは、彼の面倒を見ながら苦しい人生を送ります。
 彼の人生の最後の描写では、記憶の奥から聞こえてくる「でんびんや」の鈴の音が聞こえてきて、彼の悲惨な人生を和らげてくれる気持ちになります。この鈴の音がなかったら、この小説の評価はどうだったのだろうと、考えたりします。悲惨、辛い、苦しい、孤独だけを訴えても、人の心には届きにくいのではないのかと。